彼女の初体験の場として二人で選んだ部屋には、天蓋付きの可愛らしいベッドが設置されていた。
立地の関係もあり、決して広い部屋ではなかったが掃除が行き届いており、何より特徴的なベッドが“非日常”を感じさせる。
美羽にはソファでゆっくりしてもらうように伝え、僕は先に浴槽にお湯を溜め始めておいた。
僕が部屋に戻ると、ソファにチョコンと座った美羽が物珍しそうに部屋の中を見回していた。
準備ができるまでどんなアメニティがあるのかとか、
部屋の中を探検してみませんか?
美羽も僕の提案に乗ってくれた。
二人で部屋中の扉を開けてみたり、枕元のパネルを操作してみたり。
実際開けてみると中は空っぽの空間もあったが、そうやって二人して小さな子どものように部屋の中を探索して回ってみると思いの外楽しかった。
何より、二人きりになるための場所に入ったことで再度見え始めていた美羽の緊張の色がスーッと消えていったことは収穫だった。
一通り部屋の中を見て回った後、僕たちは少し小さいラブソファに腰かけた。
二人で座ると必然的に身体を寄せ合う形になる。
こういう所ってもっと殺伐としてるのかなって思ってましたた
いかがわしいイメージはありますよぉ
ちょっとした革命ですね
僕なら友だちはちょっと呼べないような…
緊張が解れてからの美羽はとても話しやすい女の子だった。
いい意味で“どこにでもいる女の子”という印象で、可愛らしい外見を考えてもかなりモテることは容易に想像できる。
そうなると初体験の年齢がどんどん低下している今、美羽みたいな子が処女を守り通してきている理由に興味が湧いてくる。
美羽は悪戯っぽく笑いながら答えた。
怖いじゃないですか
会う約束をする前、DMのやりとりの中で見せてくれた決意の裏側に「姦通時の激痛への恐怖」があったことを知り、やっと僕の中で不思議に思っていたことが一本の線に繋がった。
僕が日常的に発信していた内容は「痛みを伴わないセックス」。
一般的には痛くて当然とまで考えられている“初体験”であったとしても、じっくり時間をかけて全身がドロドロになるまで解して痛い思いをさせないように気を付けて来た。
事実、処女卒業のお手伝いをさせてもらった十人程度の女の子たちの中の一人とて、初体験の中で「痛い」とこぼすことがなかったことは僕の自信の根拠の一つとなっている。
別に処女の女の子を選り好みして抱いてきたわけではないため、処女卒業のお手伝いをさせてもらった人数自体はそれほど多くはないのだが…。
それでも許可をもらって投稿してきた彼女たちとの思い出が、新たな悩める女の子を僕の元に導いてくれたことを僕はとても感慨深く感じた。
彼女はどうして倍にもなる歳の差がある僕を初体験の相手に選んでくれたのか。
ちょっとした推理小説を解き明かしたかのような達成感を感じた瞬間は、同時に「“初めてはひろとさんと”ってずっと心に決めていました」という甘い言葉には決して男として魅力的に映ったなどという意味合いは含まれていなかったことを悟る少し残念な瞬間にもなってしまった。
そうこうしているうちに、浴室から豪快に鳴り響いていた水音が止まった。
先に浴室を使ってもらうように促し、僕は美羽がお風呂に入っている間に部屋の準備を整えていく。
まずは有線の番組表を見ながら歌詞に気を取られにくく、ムードを作りやすいR&Bのチャンネルをいくつか聞き比べつつ、照明を触って部屋をうす暗くする。
その後、ベッドの上に敷かれたベッドカバーを軽く畳んで部屋の隅に置き、彼女が浴室から出てきたときに使ってもらうタオルと備え付けの部屋着を浴室の前に用意した。
浴室から戻ってきた美羽はキョロキョロ回りを見回して頬をほんのり赤らめていた。
薄手の部屋着の胸元のボタンは上から2つが留められておらず、可愛らしいデザインのクリーム色のブラジャーがチラチラとこちらを覗いている。
明るさはこれくらいでも大丈夫かな?
気を遣ってもらってありがとうございます
少しだけ待っててもらえますか?
コクンと頷いた彼女の頭を軽く撫でた後、僕は文字通りサッとシャワーを済ませて彼女の元へと戻った。